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カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』、早川書房(2008) [文学小説]

ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロ氏の作品です。

クローン人間を題材にしたものだというので、興味がありましたので読んでみました。つい最近再読したのですけれど、物語全体に流れる抑圧した独特の雰囲気がなんとも言えず、心に引っかかりを残す小説だなあというのが感想です。ちなみに私はノーベル文学賞を受賞するまでイシグロ氏のことは知りませんでしたし、もちろん作品を読んだことはありませんでした。

この話は、いずれは臓器移植に供されるため、それだけのために育てられる少年少女の物語で、物語の舞台はその少年少女達が通う学校と、卒業後10年の生活から成っています。語り手はキャシー・Hという31歳の女性(学校卒業後11年目)が担います。科学的な記載はほとんど無くて、読み手は臓器移植のために育てられるクローン人間の存在が当たり前として許容される社会の中へいきなり放り込まれることになります。私たちが住んでいる社会とはそもそも設定が違うので、近未来小説というのは相応しくなくて、敢えて言うなら異世界小説でしょうか。

この少年少女たちには、もちろん心も感情もあります。普通の人間と同じという設定で描かれています。臓器移植に供されることが予め運命として教え込まれており、淡々とそれに従って使命を終えることが義務づけられており、それに対する反抗とか反乱というのはありません。後半部分では少年少女たちの育成(教育)方針について、一部の大人たちの闘いが描かれますが、結局上手く行きません。

私は、この物語には強い哀しみが内包されていると思いました。少年少女たちの視点でも、彼等の運命を知っている大人の視点でも。私が前者の方の哀しみにより強く反応してしまうのは、この小説の主人公たちであるクローン人間たちの将来が定められてしまってるという、その閉塞感に依るものかもしれません。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: Kindle版



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新宿御苑の元職員、外国人客から入園料を未収 [日々のこと]

2018年10月25日、新宿御苑の元職員が、外国人客から入園料を徴収せず未徴収額が約2,500万円に達しているとのニュースが報道されました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181025/k10011684991000.html

外国人客の入場をスルーしていたというのいうのではなくて、入園券をただで渡し、コンピューターの記録も改竄していたらしいです。

でもこれ、外国語(英語)が話せないから、対応するのが怖いって、仕事になってないですよね(^^;
この方の頭には、英語で問題無く意思疎通できるか、あるいは全くできないかの2パターンしか無かったのでしょうか。入園券を売るだけならばあらかじめ手順を決めて機械的にできるし、案内だったら英語で書かれたパンフレットを黙って渡すだけだって最低限それでよいはず。

と考えると、日本人の英語力うんぬんや東京オリンピックが来るのにこんなんじゃ不安といった大きな話では全くなくて、単に職務怠慢だった、というだけかと。2,500万円の被害って、入園料200円だとすると12万5,000人分じゃないか!


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山中伸弥、羽生善治、『人間の未来 AIの未来』、講談社(2018) [エッセイ・随筆]

将棋の名人、羽生氏とiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中先生の対談録です。

私は、過去に山中先生の講演を聞いた事があります。日本整形外科学会という学会の特別講演だったのですが、何故整形外科の学会で講演会?と不思議に思いましたが、山中先生は初め整形外科医を目指していたんです。ここら辺のいきさつはこの本でも触れられています。講演で見聞きした山中先生のお人柄がそのまま本に現れていて、大変読みやすくわかりやすく書かれています。

NHKスペシャル?で電王戦(プロ棋士とAIとの対戦)が取り上げられていて、その番組もなかなか面白かったので、その流れで読みました。私が知りたかったのは、プロ棋士は対戦でどんなことを考えているのか、それはAIとどう違うのかということでしたが、非常にクリアな回答が示されていました。

人間の指す手は過去からの流れで構築された、美的センスに沿っているということ、一方AIはその都度最適な手を計算で出すことで両者は根本的に異なり、それが人間棋士がAIに対する違和感につながっている、というのは非常に面白いと思いました。

さらに、人間が考える手というのは美的センスに沿っているが故に制約があり、美しくないと捨てている手の中に実は新しい有用な手があるのかもしれないと、羽生さんは考察されています。すごい、さすが羽生さん! すると、AIが提示してくる手を研究することは、将棋の世界を更に深く理解することにつながるだろう、と。

実はこの問題、将棋に留まらずAIが応用される分野全てに言えるんですよね。これから先もAIの進歩は続くでしょうが、現在実現化している技術範囲まででも新しい世界が開けるのではと、興奮した一冊でした。Kindle版も出ています。


人間の未来 AIの未来

人間の未来 AIの未来

  • 作者: 山中 伸弥
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/02/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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室生犀星「蒼白き巣窟」 [文学小説]

先日購入した、室生犀星の作品集(Kindle版)に「蒼白き巣窟」という短編小説があります。作者が遊郭の中に入り込み、女達の生活を描き出しつつ客の1人として関わる様を描いた作品です。巣窟の規模は四千何百個とあり、それなりに大きな規模かと思います。

「私」と女郎「おすゑ」のやりとりが一つプロットとしてまとまっていますが、これを見ると「遊ぶ」ということも人間関係の一つであることがよくわかります。

さらに、病気の祖母を抱えた女が「私」を自宅に招き入れる部分。これはもう、生活の場と商売の場が完全に重なってしまっていて、正直読んでいてかなりの違和感を覚えました。女の身の上と商売は関係ないだろうという気持ちが先に立ったのです。でも読み進めていくうちに、このような実態は存在し得たであろうし、女が置かれている境遇を考えるとこの形しかあり得ないだろうと納得せざるを得ませんでした。これが作品中の二つ目のプロットになっています。「私」はこの女に銀貨を恵むのですが、立場の上下関係から来るいやらしさは全く感じられません。まあこれは金持ちの旦那が気まぐれお金を恵んでやるという流れにはなっておらず、犀星も丁寧な描写を心がけているせいかと思いますが。貧困から来るやるせなさを感じるかはおそらく人それぞれで、私は、文体は結構ドライな感じでやるせなさはあまり感じませんでしたが、読む人によって意見は分かれるかもしれないなと思いました。

ここに出てくる人の生活レベルは底辺層です。そこから来る場末感を作品中にぶちまけ、所々にきらりと光る登場人物同士のやりとりを丁寧に拾っていくという、犀星が得意とする手法ですね。
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室生犀星「或る少女の死まで」と「ザボンの実る木のもとに」 [文学小説]

以前に、ブログで村上春樹『ノルウェイの森』と「螢」の関係について論じたことがありました。「螢」は『ノルウェイの森』の一部となっている短編集で、『ノルウェイの森』は「螢」をほぼ完全な形で含んでおり、作品の出発点となったと考えています。

同様の構造を、室生犀星「或る少女の死まで」と「ザボンの実る木のもとに」にも見ることができます。「ザボンの実る木のもとに」は「或る少女の死まで」の一部と見なせる作品ですが、「或る少女の死まで」はそれほど長い作品ではないので、一部と言うの言い過ぎかもしれませんが。

ところで後者の底本は「室生犀星全集第一巻」新潮社、昭和三十九年とされており、「或る少女の死まで」よりは新しい作品のようです。とするとこれは作者が「或る少女の死まで」と書いた後で、そのコアとなる部分を再度取り出して結晶化したものと考えられるかもしれません。

※下記の電子本を読みました。

『室生犀星作品集・57作品⇒1冊』

『室生犀星作品集・57作品⇒1冊』

  • 出版社/メーカー: 室生犀星作品集・出版委員会
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: Kindle版



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室生犀星「或る少女の死まで」 [文学小説]

こちらも、Kindle端末で読める電子書籍を入手しました。
著作権が切れているのか、67作品を1冊にまとめたものが99円でした。

「或る少女の死まで」を再読しましたが、こちらは初読のときと印象がほとんど変わらず。
登場人物が暮らす世界の、場末感がぷんぷんする作品なのですが、その中でふじ子の美しさが際立っています。

色々な作品が詰まっているので、楽しめそうです。
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福永武彦『草の花』再び [文学小説]

かなり久しぶりの書き込みです。

福永の作品もいくつか電子書籍化されており、『死の島』をはじめ、『草の花』、『廃市・飛ぶ男』、『夢見る少年の昼と夜』、『風のかたみ』などがAMAZONやApple Storeで入手できます。

福永の小説を電子書籍の形で持っておくと、KindleやiPhoneからいつでもアクセスできてよいですね。常に読むとういうわけではありませんが、昔、出かける際に文庫本を携行するような感覚です。

久々に『草の花』を読み返しましたが、第二の手記の中に書かれた、汐見茂思の戦争に対する苦悩、千枝子とのやりとりが心に残りました。以前は興味が第一の手記の方に行っていたので自分でも意外でしたが。。


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マイケル・ルイス『フラッシュ・ボーイズ』 10億分の1秒の男たち、文藝春秋(2014) [社会科学]

文学作品ではなくて、経済(投資)モノの話が続きます。先日紹介した、『世紀の空売り』に続く、米国ウォール街でくり広げられる投資合戦の物語です。

『世紀の空売り』がサブプライム・モーゲージ債という超有名な話をテーマにしているのに対し、こちらはトレーディングの取引を巡るシステム上の闘いなのでいまひとつ地味(?)に感じました。影響という意味では非常に大きいのですが。

トレーディングのやりとりというのは、当たり前ですが今は電子化されていてシステム同士が高速でやりとりして取引が成立します。この、投資家の動向を10億分の1秒早く把握するだけで大儲けができる(逆に言えば投資家が搾取される)仕組みを詳細に解説したノンフィクションなのですが、どうもいまひとつぴんときませんでした。説明が不親切だったりわかりにくいというわけではなくて(むしろかなり丁寧に解説されている)、自分自身がこの業界のことをよく知らないからかもしれません。しばらく経って読み返せばもう少しわかるようになると思っています。

確定拠出年金やNISAなど、私も今から準備を進めていますので他人事ではいられません。こういうのってまずは具体的なハウツー本を見るのが最初でこの本のような業界全体の大きな話は一番最後か(自分の投資のために限れば)読む必要はなかったりします。ですから純粋に面白そうと思える人に対してだけ、お勧めします。 

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

  • 作者: マイケル ルイス
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 単行本



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マイケル・ルイス『世紀の空売り』-世界経済の破綻に賭けた男たち、文春文庫(2013) [社会科学]

2007年に起きたリーマンショック(世界同時の株価暴落)にまつわる実話で、リーマンショックで儲けを出した男たちの物語です。切り口がちょっと変わっているのと、以前に読んだこの著者の本が面白かったので購入しました。また本の解説を書いているのが、話のわかりやすさでは定評がある(と私は思う)藤沢数希さんでしたので、きっと面白いに違いないと踏んだのです。

サブプライム・モーゲージ債のしくみとその崩壊については今までにたくさん解説されていますし、私も当時NHKの特集番組を見た記憶があります。金融工学を駆使(?)したあぶなっかしい金融商品だと解説されていたように思いますが、その仕組みを利用して大もうけした人たちがいたという話は、ほとんど取り上げられなかったように思います。本書の主題はまさにこの部分で、慧眼(目利き)を持つ人たちの話でもあります。原文の「マネー・ショート」という題名そのもので映画化されています(まだ観ていませんが)

サブプライム・モーゲージ債が崩壊すると予想するのは、もしかしたらさほど難しくなかったのかもしれません。ウォール街の熱狂から少し距離を置いて冷静になることができれば。でもサブプライム・モーゲージ債の崩壊を儲けにつなげる道筋を付けたのは、本当にすごい。株を買って株価が上がれば儲かるといった単純なしくみではなく、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という一種の保険のような金融工学商品を使うのですが、サブプライム・モーゲージ債を対象としたCDSというのは存在しなかった。証券会社を説得して商品を作り出したというのもすごい。

サブプライム・モーゲージ債が崩壊したときに儲ける方法を考案し、そのしくみを現実化させたのはマイケル・バーリという株式投資家かつ医師です。私はこの人物に強く心を惹かれました。この一風変わった、アスペルガー症候群を患った人物たった1人の慧眼に、ウォール街の関係者全員が及ばなかったというのは実に驚くべき状況です。非常に痛快な話です。もっともバーリ氏はファンドを立ち上げ投資には成功しますが、人付き合いに難があったせいかあまり報われなかったようですが。

人に認められたい、好かれたいという方には全く興味が無いと思いますが、物事の基礎事実の把握、物事の根幹の理解や独創について興味がある人には面白いと思います。このような資質が対人関係とバーターになっているということも併せてですが。




世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

  • 作者: マイケル・ルイス
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/03/08
  • メディア: 文庫



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岩瀬大輔『ネットで生保を売ろう!』、文藝春秋(2011) [エッセイ・随筆]

5年前に買っていた本ですが、最近やっと読了しました。

日本で初めてのネットによる生命保険を立ち上げ、ビジネスを始めるところまでの話です。新聞やTVで盛んに取り上げられたことがあるので覚えている方もおられるのではないかと思います。

メディアに取り上げられて話題になっても、それが直ちに収益には結びつかないとか、暖かい応援があっても実際にお金を払って契約してくれるのは別の話だとか、リアルな話がきちんと書かれていて面白かったです。宣伝は決して手を抜いてはいけない、どんなに良いと信じていて、実際そのように思ってくれる人が多くても、自然に売れることはないのがよくわかりました。最近は必要に迫られていマーケッティングの本をいくつか読んでいるのですが、良い実例を知ることがでたという感じです。


ネットで生保を売ろう!

ネットで生保を売ろう!

  • 作者: 岩瀬 大輔
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/03/24
  • メディア: 単行本



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